襟裳岬から広尾町へ向かう道道34号沿いの百人浜一帯には、広大なクロマツの林が広がっています。このクロマツ、北海道には自生していない樹木。にもかかわらず、なぜこのような樹林帯があるのか?
元来、明治期に北海道開拓で入植した頃は、クロマツではなくカシワやミズナラ・シラカバなどを主とする広葉樹の原生林が広がっていました。しかし、開拓では住居や燃料のために原生林を伐採。すると、襟裳特有の強風のため裸地は一気に砂漠化してしまいます。ただの砂漠なら鳥取砂丘ならぬ襟裳砂丘の誕生で済んだのですが、この砂漠の砂が強風により沖合まで飛ばされ、襟裳岬周辺は黄色い海へと変貌。そのため昆布などの海藻類や回遊魚が減少し、漁業に甚大な打撃を与えることになってしまったのです。そこで、1953年(昭和28年)、浦河営林署「えりも治山事業所」が開設。襟裳の緑化事業が始まったのです。とはいえ、現代のように土木工事会社が入り土地改良をしたわけではなく、地元の漁師たちが自ら植樹作業を行ったのです。
砂漠化した土地の緑化には、いきなり木を植えてもダメで、まずは草地化から始めるのだそうです。これを「草本緑化」といいます。そこで、まず草の種をまいたのですが、襟裳特有の強風ですべて吹き飛ばされて草が生えません。4年もの試行錯誤ののち、ある漁師の発案で、種子を蒔いた後に藻の雑草「ゴダ」を覆い被せ、種子を乾燥と強風から守るという「えりも式緑化工法」が生み出されると、一気に草地化が進行。事業開始から7年後に192ヘクタールの草地化に成功します。
草本緑化が完了し次は木を植える木本緑化に入ります。ところが思うように木が育ちません。様々な木の苗を試植した結果、クロマツが最適であるということを突き止め、現在見られるクロマツの人口植林帯が生まれるに至ったのです。そして2007年(平成19年)、砂漠化した192ヘクタールの約94%にあたる181ヘクタールの木本緑化を終了しました。実に54年の歳月をかけています。このような気の遠くなるような時間と努力の結果、えりも町の漁業が成り立っているということは、旅人の私たちの知るところではありませんでした。実はこの物語、NHKのプロジェクトXでも放送されています。プロジェクトXも相当古い番組なので覚えている人は少ないでしょうか。
この緑化事業については、小さな資料館と2つの展望台が整備されていますので、それらをご紹介したいと思います。
みどり館と第1展望台の入口(矢印)
みどり館の展示室。小さなワンルームで質素な展示ですが、要点は理解できる
緑化事業の概要はパネルで説明
映像資料も見られます
第1展望台は、林業総合センターみどり館の脇に入林口があります。よく整備された散策路で、ほとんどが木道となっています。上の地図を見て判るように、みどり館から展望台まではけっこう距離があり、全長1169mの遊歩道で15分かかります。ところが、歩道の終点は道道34号に繋がっており、そこからだと250mしかありません。どうしても展望台へ行きたい場合は、道道34号側からアクセスしましょう。
散策路はこのように整備されている
ここが第1展望台。眺めは最上部の画像です
襟裳岬方面を眺めた様子
道道34号側の入口です
第2展望台は、みどり館から北へ2kmほどのところにあります。注意していないと素通りしがちな目立たない駐車場です。散策路は3コースあるのですが、長いコースは唯々クロマツ林の中を歩くだけで楽しくありません。ここでは240mで着く展望台のみでよいでしょう。展望台といっても、ただの禿げ山のような場所で拍子抜けします。また、景観も第1展望台と大差はありません。どちらかだけ選ぶとすれば、第1の方をお薦めします。ここ第2展望台はクマ出没注意でもあり、やや鬱蒼としているためです。
まずまず整備されていますが、クマ居ます
木製階段を登ると展望地です
第2展望台から人工林を見渡す
緑化前の写真。1961年(昭和36年)撮影。さすがにひどい状況です
襟裳岬方向を望む
【住所】幌泉郡えりも町
【電話】TEL:01466-3-1815
【料金】無料/入館料
【開館時間】9:00〜16:00
【休館日】期間中無休
【滞在時間】10分
【駐車場】あり/無料/未舗装
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